第一夜 The first night
KAERU HOUSE

 

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【月夜】

息を切らして見慣れた坂道を登っている。
車が先を争うように流れる国道を横切って、
電車の轟音が響くガードをくぐって。
見慣れた坂道なのに、その先を知らない。
坂道の先を目指しているのか、
歩くことだけが目標なのかもわからない。
でもそんな自分に不安は感じない。

そして目の前に立ちふさがったビル。
そのひとつしかない入り口に、
当然のように足を踏み入れる。
非常階段のような殺風景な階段をひたすら上る。
途中綺麗な庭や噴水が、
ガラス張りのビルの中に広がっているのを見る。
でもそこは自分の目指していた場所じゃない。
そうしてひたすら上っていくと
不意に階段が途切れて目の前に現れた風景。

一歩踏み出せば
遥か下へ続く濃緑色の闇に吸い込まれてしまうだろう。
ものすごい速さで低く流れる雲に乗れるだろう。
草をなぎ倒していく風に体がバラバラになるだろう。
でも心の中に不安も恐怖も感じないのは、
月が出ているから。

真ん中にポカリ浮かんだ月。